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名古屋高等裁判所 昭和51年(ラ)190号 決定

抗告人

東海板紙株式会社

右代表者

松村又三郎

右代理人

武藤鹿三

外一名

主文

一、原決定を取消す。

二、抗告人東海板紙株式会社につき更生手続を開始する。

三、管財人として

兵庫県西宮市宮西町一一番四号

西村一

名古屋市東区中市場町三―二四

オオミヤハイツビル四階B号

弁護士 佐藤正治

を選任する。

理由

一抗告人は、原決定を取消し抗告人東海板紙株式会社(以下抗告会社という)につき更生手続を開始する旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙抗告理由書記載のとおりである。

二よつて、当審における事実取調べの結果を加えて審理するに、抗告会社につき更生原因の存すること明らかであるから、以下抗告会社の更生の見込の有無につき抗告理由に照らし順次判断する。

(一)  抗告会社は、昭和五一年八月以降休業していて、未稼働の機械装置の整備、ボイラーの補修代金、電力代金等の未払代金の支払い、原材料入手のために約七、二〇〇万円ないし八、〇〇〇万円のいわゆる立上がり資金が必要であるところ、同会社には処分可能の遊休資産もなく、提供を受けるべき個人資産も有しないため、右所要資金の調達に苦慮していたのであるが、今回、別府製紙株式会社(代表取締役西村一)並びに靖国紙業株式会社が抗告会社に対して当面の立上がり資金として各自現金二、〇〇〇万円合計金四、〇〇〇万円を融資し、必要に応じてさらに所要資金を融通すること及び右別府製紙株式会社において約五〇〇万円相当の燃料を、右靖国紙業株式会社において、約二、五〇〇万円相当の原材料(抗告会社の生産トン数の一割増の古紙)を継続して抗告会社に現物で支給することを確約していることさらには大阪車輛(資本金二億円)の塚本社長も資金面の援助をする旨の意向を有していることが認められるから、抗告会社の再建に必要な立上がり資金は充足されるものと考える。

(二)  板紙業界の需給動向は、昭和五〇年一一月頃から落ち込み、同五一年三月頃には最低の状況になつたが、その後緩慢な回復過程をたどつていたところ、同年九月頃から急速に回復の兆を見せており、殊に抗告会社の製品は優秀で、愛知県内においては比較的競争業者が少ないこともあつて市況の向上にともなつて、抗告会社の再建に寄与しうるものと推測される。

(三)  抗告会社が将来収益力を拡大させるためには生産設備の近代化が必要とされるところであるが、反面、当該企業の規模に応じ、職種に適した設備投資をしないと却つて資金を固定化することとなるから、その点の調和が必要であると考えられる。

ところで、抗告人会社は現有設備につき専門の機械メーカーにより、数回にわたつて部分的な改善、改良を重ねてきており、その生産能力も日産三〇トンから現在では日産六〇トンに向上してきていることが認められるので、同会社の生産設備が特に劣悪であるものとも考えられない。

むしろ、現有設備を早急に整備して、右生産量を確保することが必要であろうと推認される。

(四)  抗告会社は、昭和五一年七月二八日現在において資産が二億四、六〇八万二、二四三円であるのに対し負債が五億一九一万二、九七七円という債務超過の状態にあるが、抗告会社に対する大口債権者らは更生手続への協力する旨を表明しているうえ、同会社の主だつた販売先も挙つて、抗告会社の販売に積極的に協力する旨の意思を表明していること、又現在同会社の従業員のうち労働組合員は五二名で、ほかに非組合員が一七名、全員で六九名の従業員がいるがその殆んどのものが二〇年以上の経験のあるものであつて操業開始になれば、直ちに就業できるよう待機しており、機械の整備、工場内の清掃を行うなど工場の再建にかける意欲が強いことが認められる。

(五)  公認会計士佐藤政雄の意見書によれば、流動比率、総資本営業利益率等財務分析に照らし、適切な更生計画の策定がなされれば、抗告会社の再建は可能であることが認められる。

三以上を総合すれば、抗告会社は更生の見込がないとはいえない。従つて、本件抗告は理由があるので、原決定を取消して抗告人につき更生手続を開始し、必置の機関である管財人は当審でこれを選任することとし、主文のとおり決定する。

(丸山武夫 林倫正 杉山忠雄)

抗告理由書〈省略〉

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